Episode 01 

第一話

 
 
 

 <プロローグ ~青い風>

 
 
おいでおいで
ほら、ここにいるよ
 
そう呼ばれたような気がして窓から外を見た。
 
 
「わああっ」
 
みどり、みどり、みどり!
 
真っ直ぐに伸びた稲がどこまでも続いている。
森や川や家がピカピカ光って、窓の外を通り過ぎていく。
 

 
列車の中にヒュルルルッと青い風が滑り込んできた。
お父さんの生まれたまちがもうすぐだ。
 
「東総社~東総社~」
 
 
ここにいるよ
ずっと待ってた
 
わたしたちは小さな駅のホームに降り立った。
 
 

 
 
 

<その1 総社宮>

 
「まい、おばあちゃんちへ行くよ。」
「歩いて?」
「そう。総社宮を通って。きっと面白いよ」
東総社駅を出た私たちは、横断歩道を渡って東へと歩く。
狭くてボコボコした歩道。
少ししてヒョイっと右に曲がって駐車場を抜けたら
屋根のついた長い廊下の端っこにいた。
 

 
「ここどこ?」
「もうここは総社宮!これは回廊って言うんだよ」
とお父さん。
「ふう~ん、かいろう、ね」
右っ側にお賽銭箱があったので、ガラガラと鈴を鳴らして
「おばあちゃんのケガがはやくなおりますように」
ってお祈りした。
 

 
回廊の左っ側には池があって、池のなかには島があって、何本も松が生えてる。
あ、小さな神社みたいなのもある!お父さんを振り向くと
「この神社にはたくさん神様がいるんだよ。ほらここにも。あそこにも。」
指差しながら、内緒話みたいに小さな声で言った。
お母さんも「ふふふ」と笑う。
たくさんの神様!
私を呼んだのは神様かな?
なんか不思議な気分になった。
 
 
 
ようこそ、総社のまちへ
ようこそ
 
あとちょっとで回廊が終わるところで、お父さんは左に降りた。
そのまま池の横を通って駐車場を通って道に出る。
総社宮はここで終わりなのかな?ね、お父さん?
あれ?お父さんが道を渡ってすっと細い道に入っていく。
「まい、ナイショの道だよ。ついておいで」
 
 
 

<おばあちゃんの家>

 
  
「お母さん、帰りました~!」
「こんにちは~。おばあちゃ~ん」
引き戸を開けたら、足下の三和土に黒い猫が丸くなってた。
うう~んと伸びをして、尻尾をピンと立てて、
「いろは旅館へようこそ」
「ええ?」
びっくりしてる私に気がつかずに、お父さんもお母さんも家の中に入っていく。
ねえねえ、聞こえなかったの?
「僕、アオ。僕の声は君にしか聞こえないと思うよ」
ええ?
総社っていったいどんなところなの?急にドキドキしてきた。
 
 
…これが、私と総社との出逢いでした。
これから私が総社で見たことや行ったところ、感じたことや私の家族のことなんかをお話しするね。
思い出したりまとめたりするので、話があっちこっちしちゃうかもしれませんが、よろしくお願いします。(まい)

つづく
 
 
イラスト:高橋 香
第一話ストーリー:石川早苗
 

東総社駅

吉備線東総社駅は明治37年11月15日に総社駅として開業しています。当時は中国鉄道(現・中鉄バス)の経営で岡山~湛井の間を結んでいました。大正14年に伯備線が宍粟(現・豪渓)まで開業し西総社駅(現・総社)が置かれます。これにより総社には玄関となる駅が2つ出来ました。そこで2つの駅を「西駅」「東駅」と呼び分けるようになりました。まちの拡大と伯備線の陰陽を結ぶ重要性から昭和34年から現在の駅名に変更されました。しかし、今でも「西駅」「東駅」という呼び名が使われているのは面白いですね。

『れとろーど一期一絵 日めくり』(発行:総社市文化協会)より転載
 

 

総社宮

総社市の地名の由来となったのが総社宮です。このお宮は備中国の324社を集めて祀っています。広い境内に長い回廊と三島式池泉庭園がゆったりとした時の流れの中に静かに佇んでいます。拝殿には円山応挙や大原呑舟などの江戸時代に京都で活躍した絵師の描いた絵馬が多く奉納されています。これらの絵馬は八田部(総社の旧称)の豪商たちが京都から絵師を呼び寄せ、いわゆるパトロンとなって描かせたものです。これらの絵馬から当時のまちの隆盛を感じることができます。

『れとろーど一期一絵 日めくり』(発行:総社市文化協会)より転載